Komoda Dental Clinic コモダ歯科医院

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COLUMNコラム

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『いつもお口の中をきれいに』は、
自分の体をまもること

むし歯菌や歯周病菌がお口の中の問題だけでなく、全身に影響を与えるということは周知の事実となってきました。

むし歯や、歯周病にならないためという歯科的予防の観点だけでなく、健康を保ち、高齢になっても生活の質を保ち続けることと『いつもお口の中をきれいにしておくこと』について考えてみましょう。 心臓病、糖尿病、嚥下性肺炎、がんの治療や骨粗しょう症治療の薬剤との係わりなど、特に中年以降の皆さんには関心のあることだと思います。 少々難しい長いコラムになってしまうのですが、平たく言ってしまえば、心臓や肺炎など怖い病気の陰にはむし歯や歯周病菌が係わっている。手術や薬剤、放射線による治療の合併症の原因となるもののひとつにやはり同じお口の中の細菌が係わっている。だから、お口の中はいつもきちんと管理をしてきれいな状態を保っておこう。そうすれば、万一、がんや骨粗しょう症と診断されてもすぐにその病気の治療に専念することができる。そういうことを伝えたいのです。

★感染性心内膜炎
心臓の中の弁や壁に細菌がつき感染をおこします。お口の中の衛生状態がよくないと感染を起こすことがわかっています。原因のすべてが口腔内の細菌ということではありませんが、まれな病気ではありますが恐ろしい病気といえます。ですから、健康な方はもとより、特にリスクが高いとされる心臓弁膜症、先天性心疾患の患者さんには、ブラッシングによる日頃の清掃、定期的な歯石除去などのケアを継続することによってむし歯を放置しないこと、歯周病をひどくしないことをめざし、感染の可能性を低くすることが大切です。 また、当院では当該心疾患をお持ちの方には、歯科処置開始一時間前に所定量の抗生物質をのんでいただく場合があります。

★嚥下性肺炎
高齢者や手術後の患者さんに多くみられ、最近はその予防に関心が向けられています。
咳反射や嚥下反射が低下すると、知らない間に細菌が唾液や胃液と共に肺に流れ込み、この細菌が肺の中で増殖して誤嚥性肺炎が起こります。肺炎球菌、嫌気性菌、インフルエンザ菌、黄色ブドウ球菌、緑膿菌などが原因となることが多く、この中の嫌気性菌にむし歯菌や歯周病菌が含まれます。ですから、誤嚥性肺炎の予防には高血圧や糖尿病などの生活習慣病のコントロールと脳血管障害の進展を防止すること、食後、就寝時に胃食道逆流を防ぐ体位を工夫すること等が必要なだけでなく、ブラッシングの徹底、義歯の清掃、むし歯・歯周病を治療してお口の中の清潔を保つことが大切になってくるのです。

★骨粗しょう症の薬(ビスフォスフォネート(BP)製剤)と歯科治療
歯科治療を受ける患者さんに必ず伺うことのひとつに骨粗しょう症(がんの治療に服用するケースも含め)の治療としてビスフォスフォネート(BP) 製剤をのんでいるかどうかがあります。 BP製剤は骨粗しょう症治療にとっては画期的なお薬ですが、歯科治療の内容によっては3年以上服薬を継続している方に骨壊死が顎骨におきる可能性がまれにあるという問題をはらんでいるのです。 歯は顎の骨から上皮を破ってはえているため、口腔内のばい菌は上皮と歯の間隙から顎の骨に直接到達しやすいといえます。ですから、特に麻酔を使っての抜歯や、外科的な処置をする場合は、整形外科や内科の先生方の情報もいただき、休薬(BP製剤に代わるお薬を処方してくださるケースが大半です)をしていただく場合もあります。 以上のようなことを踏まえて、BP製剤服用の前には大ごとな歯の治療は済ませ、服用中は毎日のブラッシング、義歯の清掃、プロによる定期的なチェックとケアを受けてお口の中の細菌を少しでも減らして衛生状態を保つのが理想です。

★がんの治療と口腔内の問題
最近ではがんの手術を安全に乗り越えるため、手術前にお口のケアを受けることの重要性が注目されています。がんに限らず、全身麻酔での手術の際に人工呼吸器のチューブが口から喉を通して気管内に挿入されます(気管内挿管)。この際、気管のチューブを通して肺に入り込んだお口の細菌が、術後肺炎の原因となる可能性があるのです。 また、チューブを気管に入れる時に、もともと動揺している歯などが抜けてしまうこともあり、術後の食事開始の妨げになることもあります。
直接お口と関連のある口腔がん、咽頭がん、食道がんなどでは、術前口腔内の細菌を減らしておくことにより、術後の傷の感染や肺炎などの合併症を減らすことが証明されつつあります。 また、抗がん剤による治療副作用の症状がお口の中に高頻度で現れます。
口内炎がその代表的なものです。抗がん剤投与1週間から現れ、その後は自然に治っていきますが、全身状態がよくない場合や、お口の清掃状態が悪く細菌が多いと、口内炎の傷から感染が起こり、症状が重症になったり治癒が遅れたりしがちです。また細菌の感染に限らず、カンジダ(カビの一種)やヘルペスウイルスなどの特別な感染症も起こりやすくなります。むし歯や歯周炎などの歯の治療がされていない状態で抗がん剤の治療が始まってしまうと、今まで症状のなかった歯が急に悪化し、痛みや腫れが起こることもあります。
このように、がんの治療とお口の中の問題には大きなかかわりがあります。
がんの治療中は「食べる」ことが患者さんにとって、とても大変な作業になることがあります。健康なお口でしっかり食べられることは、体力を維持し、つらい治療を乗り切るために大事なのです。お口を清潔で健康な状態に維持することは、がん治療のあらゆる段階で重要といえます。 がん治療中の吐き気やだるさなどで口の清掃が難しくなることもあるでしょう。このお口のケアを私たち歯科医師・歯科衛生士が支えます。がん治療中だからと歯科を敬遠するのではなく、治療中だからこそ歯科でお口の中をしっかりと管理していきましょう。当院は『がん患者歯科医療連携登録医療機関』として登録されています。 少しでもがん患者さんに寄り添っていければと思います。

昨今では、全身麻酔下でがん手術を受ける患者さんに術前から口腔管理をあわせて行うということを病院全体の方針と定める病院もみられるようになりました。 医学が進み、多くの病気に回復が望めるようになる一方でその合併症により残念な結果となってしまうこともあり得るのです。

むし歯、歯周病は早めに治療を進め、定期的なチェックと正しいセルフケアでお口の中をきれいに保って、不測の事態にもしっかり立ち向かうことができるように備え、ご自分の生活の質を守っていきましょう。